著者のつぶやき

『カタツムリの知恵と脱成長』は、地元の書店で

本の完成を友人に知らせると、「どのように購入するのがよいですか」とよく質問を受けます。その度に私は、「地元の書店で予約してください」と答えます。大手書店の支店でもよいですが、地元にしかない個人の書店であればなおよいです。ドキュメンタリー『幸せの経済学』(ヘレナ・ノーバーグ=ホッジ監督、2010年)でも説明されているように、地元の書店を利用すれば、それだけ経済の地域循環を生むからです。

ネットで本を注文するのは確かに便利でしょう。けれども、新作なのに定価よりもディスカウントされていたり、会員特典割引や送料の割引サービスなどが当たり前のようになっていて、物の本来の値段がわからなくなってしまいます。

書店という空間も魅力の一つです。本のことを熟知している店員さんと会話をしたり、陳列されている他の本と装丁を見比べたり、本に直接触れてその厚みや重量から制作プロセスを想像したり・・・。これらは本の「質料性/素材性(materiality)」を感じとるのに大切な「手間」です。

そう、一冊の本を買うにも、本の作り手たちが時間をかけたように、手間をかけてほしいのです。そうすることで、単なる消費者ではなく、「読者」として本と向き合うことができると思います。

書店へのアクセスが難しい地域に住んでいる方もいらっしゃるかもしれません。そのような場合はもちろん、ネットで注文するのが合理的でしょう。しかし、そうではない手段をあえて選ぶことも可能だということも覚えておいていただければうれしいです。それは、時間をかけて書店のある町まで旅をして、本当に欲しかった一冊を手に入れるという手間のかけ方です。

(かくいう私も、洋楽ロック少年だった中学・高校時代は、どうしても欲しかったアナログ・レコードを購入するために、交通費を貯めて田舎から隣の県の専門店まで購入しに行ったりしてました。ネットがまだない時代です。今から見ればとても不便で効率が悪いように思われるかもしれません。けれども、数か月~半年に一度の小旅行で手に入れたレコードは、旅の思い出と重なって、今でも手放せない宝物になっています。)

ここで興味深いエピソードをひとつ。大学院時代にフランスで研究資料を集めていたときのことです。パリのソルボンヌ大学近くの専門書街の一角にある古書店で、欲しい本を見つけた私は、「この本を買います」とレジへもっていきました。すると自分より少し年上の店員さんから、次のように注意を受けました。「本は買うもの(acheter)ではない。読むもの(lire)だ」と。それ以来、私はお店で本を買うときに、「この本を読みます」と言うようになりました。そして支払いが終わると、店員さんは「Bonne lecture!(良い読書を!)」と笑顔で見送ってくれます。今思えば、これは本を購入して読むプロセスを脱商品化していく、小さな、しかし個人レベルではとても大きな、身振りだったのではないかと思われます。

『カタツムリの知恵と脱成長』が、地元の書店と一緒に出版文化や読書文化を創っていくための触媒になるのだとしたら、著者としてとてもうれしいことです。

(1)行く:地元の書店に行って予約/購入する。
(2)待つ:注文してから1~2週間はかかるかもしれません。でも、本が届く待ち時間を楽しむ。
(3)話す:本を買うときに、「この本を読みます」と言う。そして店員さんと会話を楽しむ。

本書を購入するときには、是非、この三つの原則を実践してみてください。

著者より

2017年11月28日

中野佳裕の研究室 Yoshihiro Nakano's Web Office