COVID-19と開発主義

 フランスの月刊誌ルモンド・ディプロマティーク(Le Monde diplomatique)3月号に、米国のジャーナリスト、ソニア・シャー(Sonia Shah)による新型コロナウイルスに関する興味深い記事が掲載されている。COVID-19を、HIVやSARSなど他のウイルスの歴史を踏まえて分析しており、これらのウイルスによる感染症の発生には、20世紀を通じて進められてきた開発主義が関連しているという見解が示されている。都市化・工業化の進行に伴い野生動物が暮らす生息地(habitat)が破壊され、本来自然界の中で制御されていたウイルスと人間がダイレクトに接触するようになったことが大きな要因の一つでであるとのこと。その上で、著者は現代社会のエコロジカルな転換こそが解決になると主張している。
 開発主義と感染症流行の相関関係は、石弘之著『感染症の世界史』(角川ソフィア文庫、2017年)でも産業革命以後の長期的視座から指摘されている。同書では、治療のための抗生物質の乱用(例─インフルエンザ)が耐性菌を発生させるという医原病の問題も指摘されている。イヴァン・イリイチが『脱病院化社会(Medical Nemesis)』(1974)で分析した産業社会の逆生産性の現代的様相を考えることができる。
 今回のCOVID-19の発生と世界的流行は、開発主義が生み出した現代都市文明の構造が大きく関係しているようで、社会科学が今後、人新世の重要な問題として解明すべきは、このような側面ではないだろうか。
2020年3月25日