『都市科学事典』トランジション・シティを模索する用語集

2021年2月に春風社から『都市科学事典』が刊行された。横浜国立大学都市科学部が編集に携わったこの事典は、持続可能な都市への移行(トランジション)を模索するための様々なキーワードが網羅されている。

都市科学事典 | 春風社 Shumpusha Publishing(春風社公式HP)

小生は領域8「まちづくりとコミュニティ」に「成長管理のまちづくり」という項目を寄稿した。都市に「都会(urban)」と「市民国家(city)」の二つの含意があることに着目し、19世紀都市の経済民主化運動から21世紀の成長管理のまちづくりに至る歴史を、urbanとcityの弁証法の過程としてまとめてみた。特に現代的課題として、都市の新自由主義的統治の問題を指摘し、その是正ないし克服を目指す多様なオルタナティブ経済運動や革新的な自治体政治(ミュニシパリズム)に言及。脱成長の展望を示した。

第二次世界大戦後の開発とグローバル化の時代に、世界中で都市化が起こった。21世紀に入りその流れは一層加速化し、2009年半ばに世界の都市人口は農村人口を超えた。国連の「World Urbanization Prospects 2018年修正版」の見通しによると、2050年までに世界人口の68%が都市に居住することになるという。今や持続可能性は都市のトランジションを抜きにしては考えられない。

海外では十数年前から、脱成長・脱開発論の主要な議論と建築学・都市科学の様々な問題群が交差し始めている。欧米ではティエリー・パコ(Thierry Paquot)、シルヴィア・グルニエ・イリバレン(Silvia Grunig Iribarren)、トニー・フライ(Tony Fry)など、脱成長派・脱開発派の建築学者・都市研究者も現れている。今回刊行された『都市科学事典』がトランジション・シティという学際的研究領域の手引きとなることに間違いないが、それだけでなく、脱成長・脱開発論の裾野を広げることにも貢献するだろう。

中野佳裕

2021. 4. 9