研究者。PhD。専門は社会哲学、開発学、平和研究。社会発展パラダイムを問いなおし、持続可能な未来社会を構想するコミュニティ・デザイン理論の研究を行っている。脱成長、脱開発、トランジション・デザインがキーワード。
Researcher: Areas of specialization are social philosophy and critical development and peace studies. Working on community designing in line with the ideas of degrowth, postdevelopment and transitions design.
かつてラトゥーシュは、1989年に刊行した『世界の西洋化』(L’occidentalisation du monde, Paris, La Découverte, 1989)において、人類学者ピエール・クラストルの「民族文化抹殺(ethnocide)」テーゼを引用しながら、開発とグローバル化が諸文化の社会的想念にもたらす(精神分析学的意味での)〈抑圧〉を分析していました。この事実からわかるように、彼の脱成長論は、消費社会の〈抑圧〉のシステムから諸文化の自律性──持続可能な生活づくりの知恵や技法(アート)──を解放していくことを目指しています。
著者は、1995年に『メガ・マシン──テクノサイエンスの理性、経済理性、進歩の神話』(La Mégamachine: La raison technoscientifique, la raison économique, et le mythe du progès, Paris, La Découverte, 1995)という本を刊行していますが、それ以降、「持続可能な開発」の名の下で技術至上主義的な環境政策を追求することの危険性や矛盾、とくにそのような政策が諸文化のもつ知恵や生活の技法を喪失させる危険性について、一貫して懸念を示し、批判し続けています。
では、技術至上主義に陥らずに持続可能な社会へ移行する道は存在するのでしょうか? ラトゥーシュの答えは、Yesです。2001年に『経済理性の非理性──効率性の妄想から慎重さの原理へ』(La déraison de la raison économique: Du délire d’éfficacité au principe de précaution, Paris, Albin-Michel, 2001)を著して以来、著者は近代合理主義哲学と政治経済学を生んだ「北西ヨーロッパ・システム」とは異なる思想の水脈を、ヨーロッパの〈南〉、そして世界システムにおける〈南〉の歴史の中から再発見しようと努めています。