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研究者。PhD。専門は社会哲学、開発学、平和研究。社会発展パラダイムを問いなおし、持続可能な未来社会を構想するコミュニティ・デザイン理論の研究を行っている。脱成長、脱開発、トランジション・デザインがキーワード。 Researcher: Areas of specialization are social philosophy and critical development and peace studies. Working on community designing in line with the ideas of degrowth, postdevelopment and transitions design.

『希望の給食』上映会+講演トーク

学校給食による地域再生の動き

日本各地の自治体では、給食を軸にした地域の再生が始まっています。先駆的な例としては、1981年に始まった愛媛県今治市の学校給食改革が有名です。今治市の取り組みでは、学校給食をセンター方式から自校式に転換し、小規模分散型の調理場の利点を活かして、食材の有機農産物化と地産地消を推進してきました。

21世紀に入り日本の小中学校における学校給食の民間委託率は大幅に増加し、2018年には50.6%に達しています。その結果、給食の質の低下、調理場スタッフの雇用の不安定化と低賃金労働、ノウハウの蓄積の低下など、様々な問題が顕在化するようになりました。また、格差が拡大する中で、各家庭が給食費を支払わなければならない現行の制度の問題も指摘されるようになってきています。

このような時代にあって、千葉県いすみ市などでは環境にやさしい地域づくりの一環として、地元産の有機米を使った学校給食の地産地消が推進されるなど、自治体レベルでの学校給食改革が始まっています。

ミュニシパリズムとしての学校給食改革

世界全体の地方自治を見ると、新自由主義イデオロギーによる公共サービスの行き過ぎた民営化・市場化に対抗し、公共サービスの再公営化を推進する革新自治体が欧州各地を中心に台頭しています。脱新自由主義社会を目指すこの革新自治体の運動は、地域自治主義(ミュニシパリズム)と呼ばれています。

いわば学校給食改革は、日本における地域自治主義の代表的かつ先駆的取り組みとも言えるでしょう。

2023年1月25日(水)には、東京都杉並区で学校給食改革に関する映画上映会と講演会が開催されます。NPO法人アジア太平洋資料センター(PARC)の最新のビデオ教材『希望の給食━食と農がつむぐ自治と民主主義』を鑑賞し、制作にかかわった白石孝さんのトークが行われます。詳細は下記をご覧下さい。

上映会+講演会の御案内


自治市民フォーラム2023(主催:自治市民 後援:希望のまち東京をつくる会)
『希望の給食―食と農がつむぐ自治と民主主義』上映会+講演トーク
講師:白石孝 聞き手:渡辺ゆきこ


●日時:2023年1月25日(水) 18:30~(18:10~開場)
●場所:阿佐谷地域区民センター 第4・5集会室(定員66名※事前申込み優先)
●資料代:500円
●主催:自治市民 後援:希望のまち東京をつくる会
●申込み:jichishimin [at] gmail.com

■上映作品
『希望の給食―食と農がつむぐ自治と民主主義』(42分)https://www.kyu-shoku.net/
企画・監修:内田聖子/小口広太/白石孝
監督:香月正夫
制作:アジア太平洋資料センター(PARC) 2022年

■講演トーク・イベント
講師:白石孝/上映作品監修者
(NPO法人官製ワーキングプア研究会理事長・日韓市民交流を進める希望連帯代表)
生産者の育成や自然環境の保全、子どもの貧困といった課題への取り組みの中で、
給食の役割が改めて注目されています。

さらに隣国・韓国では、学校給食の改善を求める市民運動をきっかけに、
有機食材を用いた給食を無償で実施する「親環境無償給食」がすでに定着しつつあります。
日本と韓国の自治体での取り組み、地域の未来を形作る給食のあり方についてお話を伺います。

聞き手:渡辺ゆきこ(自治市民)
杉並生まれ杉並育ち。10代の頃から、労働者のまち・山谷をはじめ杉並区内外で貧困や
くらし課題解決のため活動を行う。
孤立しやすい高齢者世帯と行政をつなぐ生活サポート業務、複数の消費者団体の役員など、
それぞれ10年以上務める。都政を考える「希望のまち東京をつくる会」の事務局長、
貧困問題に取り組む「一般社団法人反貧困ネットワーク」役員ほか。自治市民・政策担当委員。

Voeux 2023: 言葉を探す旅へ

2022年は、パンデミック、戦争、気候変動の三重奏で混迷を極めた一年でした。研究者として向き合うべき課題も複雑化し、日々刻々と変わる世界情勢について知識をアップデートしながら、開発とグローバリゼーション研究における最新の問題群(人新世、人工知能、食とアグロエコロジー、都市デザイン、コモンズ、メンタル・ヘルス etc)に関する基礎研究を重ねていきました。

研究を続けていると、人類が直面している危機のスケールの大きさ、構造の複雑さ、変化の速度に圧倒されます。また、それらを伝え論じる情報・言説・学説の洪水に思考が追いつかなくなることがあります。

そんなとき、古典文学やクラシック音楽の楽譜に触れることで、正気と冷静さを取り戻すことができました。

文学のジャンルとして特に好んで読むのは、詩や戯曲です。今年の秋から冬にかけては、仕事の合間を縫って、「A Mirror for Magistrates」や「The Spanish Tragedy」などの中世・ルネサンス期の英語詩や戯曲の魅力を再発見したり、シェイクスピアの悲劇やT・S・エリオットの詩集を原文で読んだりしました。シェイクスピアもエリオットも、十代の頃から好きな作家で、私にとって最も親しみのある英文学作品です。

クラシック音楽に関しても、メニューヒン、エドワード・W・サイード、ダニエル・バレンボイムの音楽論を久しぶりに読んだお陰で、新鮮な気持ちで向き合えるようになりました。好きな作曲家の楽譜を読むことで、演奏を聴くのとはまた違った距離感で楽曲と向き合い、その構造を理解することができます。子供の頃に音楽を習っていた時、当たり前のように実践していたことですが、その大切さや楽しみを久しく忘れていました。

楽譜の利点は他にもあります。音楽を聴く時間を持てない時でも、楽譜を読めば頭の中で楽曲を再現できる点です。仕事で忙しい日々が続いていましたが、楽譜を本のように読むことで楽音の世界に没入し、精神の自由を感じることができました。

詩や楽譜は私の思考と感性の土壌を育む大切な言語なのだと、改めて知らされた一年でした。

2023年は、詩や楽譜と向きあう時間をもっと増やしたいですし、そのような言葉のエクササイズの中から、自分なりの思考の方法、そして対象への接近法を発明できればと思っています。

そして可能であれば、素晴らしい書にも触れたいですね。

言葉の洪水に溺れないためにも。

中野佳裕

2022.12.30