「Cahier 思索日記」カテゴリーアーカイブ

脱成長のシナリオ:経済成長主義と崩壊学を超えて

2021年度日本建築学会大会(東海)のパネル「人類非常事態への応答PART2」において、「脱成長のシナリオ A Scenario of Degrowth」という論文を報告します。

21世紀初頭のフランスに出現した脱成長運動。当初、フランス語のdécroissanceは、国連主導の持続可能な開発(Sustainable Development)の矛盾を批判し、脱開発・エコロジー志向の草の根の地域づくりをネットワーク化するスローガンとして導入されました。それから20年の時が経過し、décroissanceという言葉は様々な言語に翻訳され、国際的な学術研究のトピックへと進化しました。

近年、脱成長を巡る学術的議論は複雑化しています。今回報告する論文では、人新世言説の台頭と共に欧米で議論されるようになった未来像を巡る議論(三つの経済成長主義、および崩壊学)を整理し、それらの問題点を洗い出したうえで、脱成長による未来構想を検討しています。

何が何でも経済成長を続けていこうとするbusiness as usual=BAUの諸言説とも、宿命論的な文明崩壊論とも異なる文明移行プロジェクトが、脱成長。この論文では、セルジュ・ラトゥーシュが長年精錬させてきた文化理論としての脱成長をフランス語圏の未来研究の文脈の中で再検討しました。脱成長が目指す社会進化のメタ・ナラティブの大転換が、多元的な未来を拓こうとするのはなぜか? 存在論と認識論の両方から検討しています。

この分野に関するフランス語圏の最新の議論をまとめる良い機会となりました。

*報告原稿は、下記の Researchmapポータルサイトからダウンロード可能です。

中野佳裕

2021. 09. 01.

2021年度日本建築学会大会[東海]公式ホームページ (aij.or.jp)

エッセイ「郷里の時間と脱成長」

©Yoshihiro Nakano

7月20日刊行の『白水社の本棚』2021年夏号に、巻頭エッセイ「郷里の時間と脱成長」を寄稿しました。家族史と故郷の生活経験から、自分なりに脱成長的なコミュニティ・デザインを語ってみました。これまでは場所論の視座から脱成長を語ることが多かったですが、今回は時間論の視座を導入してみました。今後の自分の研究はこういう方向に進んでいくのだろうと、新しい課題を発見した感じがします。

セルジュ・ラトゥーシュの『脱成長』(白水社クセジュ、2020)は、私にとって、故郷の生活文化を再評価する物差しを与えてくる一冊です。生活の場所も世代も違っていたとしても、きっと、同じような読書体験をされる方がいるはず・・・。そう思いながら、今回のエッセイを書きました。

中野佳裕

2021. 7. 17.