音を奏でる時に指の運びが気になるように
物を書く時にはきっと、言葉の運びというものがあるはずで
その一つ一つのリズムが、機織の経糸に緯糸を通すように
言葉の色調を合わせ、文の肌理を整える
その細やかさは、工芸の道にも似ていて
言葉が世界に響きを与えるその微細な動きを
傍らからそっと手入れする感性の熟練を要求している
*
SNSが普及する仮想現実の時代
親指で画面スクロールを繰り返すたびに、目に飛び込むのは
「いいね!」を期待する言葉の群れ
かつて世界の散文だった言葉は、今ではネット社会の中の記号
近さも遠さも不確かな他者の前で、消費されていく
自分をポジショニングしていくために
文脈を失ったツイートが、根無し草のスピードで
*
取り戻したいこと、それは
言葉が呼吸をすること 生き生きと再び
その息遣いを聴くこと
そのリズムと共に思考を表に現すこと
言の葉が宙を舞い
水溜りに落ちたその瞬間に生まれる
微かな波紋が
振動となって世界を動かす
その世界の揺らぎを持続させること
言葉に生きる時間を与えること
*
物を書くということ、それは
この世界が生きていることを
言の葉が世界に舞い落ちるその響きとして表現すること
中野佳裕
2021. 03. 21