Voeux 2023: 言葉を探す旅へ

2022年は、パンデミック、戦争、気候変動の三重奏で混迷を極めた一年でした。研究者として向き合うべき課題も複雑化し、日々刻々と変わる世界情勢について知識をアップデートしながら、開発とグローバリゼーション研究における最新の問題群(人新世、人工知能、食とアグロエコロジー、都市デザイン、コモンズ、メンタル・ヘルス etc)に関する基礎研究を重ねていきました。

研究を続けていると、人類が直面している危機のスケールの大きさ、構造の複雑さ、変化の速度に圧倒されます。また、それらを伝え論じる情報・言説・学説の洪水に思考が追いつかなくなることがあります。

そんなとき、古典文学やクラシック音楽の楽譜に触れることで、正気と冷静さを取り戻すことができました。

文学のジャンルとして特に好んで読むのは、詩や戯曲です。今年の秋から冬にかけては、仕事の合間を縫って、「A Mirror for Magistrates」や「The Spanish Tragedy」などの中世・ルネサンス期の英語詩や戯曲の魅力を再発見したり、シェイクスピアの悲劇やT・S・エリオットの詩集を原文で読んだりしました。シェイクスピアもエリオットも、十代の頃から好きな作家で、私にとって最も親しみのある英文学作品です。

クラシック音楽に関しても、メニューヒン、エドワード・W・サイード、ダニエル・バレンボイムの音楽論を久しぶりに読んだお陰で、新鮮な気持ちで向き合えるようになりました。好きな作曲家の楽譜を読むことで、演奏を聴くのとはまた違った距離感で楽曲と向き合い、その構造を理解することができます。子供の頃に音楽を習っていた時、当たり前のように実践していたことですが、その大切さや楽しみを久しく忘れていました。

楽譜の利点は他にもあります。音楽を聴く時間を持てない時でも、楽譜を読めば頭の中で楽曲を再現できる点です。仕事で忙しい日々が続いていましたが、楽譜を本のように読むことで楽音の世界に没入し、精神の自由を感じることができました。

詩や楽譜は私の思考と感性の土壌を育む大切な言語なのだと、改めて知らされた一年でした。

2023年は、詩や楽譜と向きあう時間をもっと増やしたいですし、そのような言葉のエクササイズの中から、自分なりの思考の方法、そして対象への接近法を発明できればと思っています。

そして可能であれば、素晴らしい書にも触れたいですね。

言葉の洪水に溺れないためにも。

中野佳裕

2022.12.30