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研究者。PhD。専門は社会哲学、開発学、平和研究。社会発展パラダイムを問いなおし、持続可能な未来社会を構想するコミュニティ・デザイン理論の研究を行っている。脱成長、脱開発、トランジション・デザインがキーワード。 Researcher: Areas of specialization are social philosophy and critical development and peace studies. Working on community designing in line with the ideas of degrowth, postdevelopment and transitions design.

【特別セミナー】Designs for the Pluriverse を巡って:デザイン、人類学、未来をめぐる座談会

Ethnography Lab, Osaka 特別セミナー

Designs for the Pluriverse を巡って:デザイン、人類学、未来をめぐる座談会

デザインと人類学の関係は近年ますます接近しています。そこで、大阪大学・人類学研究室と Ethnography Labでは、デザイナー人類学をテーマとする座談会を企画しました。

2018年に人類学者のArturo Escobarが出版した Designs for the Pluriverse は、デザイン、人類学、社会運動など多岐にわたる分野で大きな反響を引き起こしています。持続可能な世界を構築するための人類学的なデザイン戦略—Pluriverse(多元世界)のためのデザイン—を論じた本書は、デザイナーにとっては、デザイン思想の中にトランジション・デザインを体系的に位置付け、存在論的デザインという新たな概念を導入する画期的な理論書です。一方、人類学にとっては、人類学とデザインの関係史を総括し、現代の人類学の研究動向の中でデザインとの協働を積極的に位置づけるものです。

気候変動が悪化する中で、社会とテクノロジーのあり方を抜本的に作り替えることが求められている現在、デザイン、人類学、アクティヴィズムを繋ぐ本書は極めてタイムリーなものだと言えるでしょう。

今回の座談会では、こうした二重性を持つ本書に注目して、デザイナー、人類学者、そしてEscobar本人とも近い研究者/アクティヴィストが、持続可能な世界への移行のためにデザインと人類学/社会科学が果たす役割について議論します。

※本座談会は、Zoomによるオンライン座談会です。

討論者

岩渕 正樹(いわぶち・まさき)

NY在住のデザイン研究者。東京大学工学部、同大学院学際情報学府修了後、IBMDesignでの社会人経験を経て、2018年より渡米し、2020年5月にパーソンズ美術大学修了。現在はNYを拠点に、文化・ビジョンのデザインに向けた学際的な研究・論文発表(Pivot Conf., 2020)の他、パーソンズ美術大学非常勤講師、Teknikio(ブルックリン)サービスデザイナー、Artrigger(東京)CXO等、研究者・実践者・教育者として日米で最新デザイン理論と実践の橋渡しに従事。近年の受賞にCore77デザインアワード(スペキュラティヴデザイン部門・2020)、KYOTO Design Labデザインリサーチャー・イン・レジデンス(2019)など。Twitter: @powergradation


中野佳裕(なかの・よしひろ)

PhD(英国サセックス大学)。専門は社会哲学、開発研究。山口県生まれ。江戸時代末期創業の老舗の和菓子屋に生まれる。英国留学中に世界の様々なコミュニティづくりの思想と実践を学び、日本の地域づくりの在り方を世界的な視点から見直す研究・教育活動を行っている。2018年4月より早稲田大学地域・地域間研究機構次席研究員。主著:『カタツムリの知恵と脱成長――貧しさと豊かさについての変奏曲』(コモンズ、2017年)。共編著『21世紀の豊かさ──経済を変え、真の民主主義を創るために』(中野佳裕、J-L・ラヴィル、J.L.コラッジオ編、コモンズ、2016年)。主訳書『脱成長』(S・ラトゥーシュ著、白水社クセジュ、2020年)。


上平崇仁(かみひら・たかひと)

専修⼤学ネットワーク情報学部教授。筑波大学大学院芸術研究科デザイン専攻修了。グラフィックデザイナーを経て、2000年から情報デザインの教育・研究に従事。近年は社会性への視点を強め、デザイナーだけでは⼿に負えない複雑な問題や厄介な問題に対して、人々の相互作⽤を活かして立ち向かっていくためのCoDesign(協働のデザイン)の仕組みや理論について探求している。2015-16年にはコペンハーゲンIT⼤学客員研究員として、北欧の参加型デザインの調査研究に従事。12月に『コ・デザイン―デザインすることをみんなの手に』(単著/NTT 出版)を上梓予定。


森田敦郎(もりた・あつろう)

大阪大学人間科学研究科教授、Ethnography Lab, Osaka 代表。著書『野生のエンジニアリング』にて、中古品やスクラップを活用するタイの中小工業の機械技術を人類学的に研究。その後、大規模な技術システムであるインフラストラクチャーが、人々の情動、身体、社会性を惑星規模の環境プロセスと結びつけていく過程について、国際共同研究を実施。その成果を共編著 Infrastructure and Social Complexity: A Routledge Companion (Routledge, 2017), The World Multiple: The Quotidian Politics of Knowing and Generating Entangled Worlds(Routledge 2018), Multiple Nature-Cultures, Diverse Anthropologies (Berghan 2019)などにまとめている。


清水淳子(しみずじゅんこ)Twitter: @4mimimizu

デザインリサーチャー / グラフィックレコーダー。1986年千葉生まれ。2009年 多摩美術大学情報デザイン学科卒業後 デザイナーに。2013年Tokyo Graphic Recorderとして活動開始。同年、UXデザイナーとしてYahoo! JAPAN入社。2019年、東京藝術大学デザイン科修士課程修了。2019年7月 ニューヨークで開催されたVisual Practitionerの世界大会 IFVPに参加。現在、多摩美術大学情報デザイン学科専任講師としてメディアデザイン領域を担当。著書に『Graphic Recorder ―議論を可視化するグラフィックレコーディングの教科書』がある。多様な人々が集まる話し合いの場で、既存の境界線を再定義できる状態 “Reborder”を研究中。


開催時間:2020年12月3日19:00~ 21:00 (JST)

会場:Zoomによるオンライン開催

Zoomの詳細をお送りしますので、下記から登録ください。

お申込先はこちらから

主催:大阪大学人間科学研究科 Ethnography Lab, Osaka

後援:科学研究費補助金基盤(A)「惑星的課題とローカルな変革:人新世における持続可能性、科学技術、社会運動の研究」

お問合せ先:Ethnography Lab, Osaka (ethnography@hus.osaka-u.ac.jp)

「節度ある豊かさ」と脱成長

セルジュ・ラトゥーシュの『脱成長』(白水社クセジュ、2020年)が刊行されました。原書刊行からそれ程大きな間隔を開けずに翻訳出版できたことを、訳者として嬉しく思っています。

本書は、著者が20年近くに亘り展開してきた脱成長論を市民向けにまとめた一冊。コンパクトながら随所に著者の長年の研究と思索の痕跡が見られ、読み応えのある内容です。

本書の大きな特徴は、脱成長社会の軸となる価値として「節度ある豊かさ(abondance frugale)」という概念が導入されている点です。この概念が最初に導入されたのは、『節度ある豊かな社会を目指して』(原題──Vers une société d’abondance frugale, Paris, Mille et une nuits, 2011)において。その後10年に亘り著者は、関連分野における最新の議論や思想史の研究を進め、「節度ある豊かさ」の多元的かつ具体的内容をまとめるに至りました。

「節度ある豊かさ」という概念は、「豊富さ」を意味する「abondance」に「簡素さ/節制」を意味する形容詞「frugal」を付けており、矛盾語法のように見えます。また、一見すると、何か我慢を強いる否定的なニュアンスも感じられます。しかし、本書で展開されているように、この語は、豊かさの質的・形態的変化(メタモルフォーゼ)を引き起こす柔軟でポジティブな概念として導入されています。

「節度ある豊かさ」は、有機的自然と調和しながら、歓びある生を他者と共に自己創出していく技法を表す言葉です。それは、脱成長プロジェクトが引き起こす多次元的な変化を照らし出します。この語のニュアンスは文脈の中で多様に変化します。個人の選択(シンプル・ライフ)として語られることもありますが、しかしその次元に留まることなく、社会経済システムの変革(再ローカル化、コモンズの再構築、自己制御の倫理の制度化)、そしてより根源的にはコスモロジーの転換(世界の再魔術化、多元世界の構築)を指し示します。

本書を訳す過程で発見したのですが、著者の文章には脱成長の意味内容が凝縮されるフックとなる言葉がいくつかあります。その言葉のもつ連想と隠喩の効果によって、世界各地の反生産力至上主義の思想文化が反響し合い、様々な色調をもって目の前に現れてきます。「節度ある豊かさ」は、そのような言葉の一つです。

アリストテレスの「中庸」の思想、イヴァン・イリイチの「自立共生」、アルベール・テヴォエジレの「簡素な生活」、ガンディーの「スワラージ」、中南米先住民の「ブエン・ビビール」など、脱成長の基礎となる様々な政治・倫理思想が、「節度ある豊かさ」という語を通じて繋がり、共振するのです。本書を読んでいると、脱成長のグローバル思想史を逍遥する長い旅に出ているかのような感覚に陥ります。

著者はフロイト精神分析学の優れた読み手ですが、彼自身の文章の中に精神分析学的でいうところの凝縮(condensation)や置換(displacement)の作用が配置されています。訳者としてはその点が興味深く、彼の思考と言葉の奥深さを見た瞬間でした。

本書収録の「訳者あとがき」の補足として、ここに書き留めておきます。

中野佳裕

2020.11.06.