言葉の運び

音を奏でる時に指の運びが気になるように

物を書く時にはきっと、言葉の運びというものがあるはずで

その一つ一つのリズムが、機織の経糸に緯糸を通すように

言葉の色調を合わせ、文の肌理を整える

その細やかさは、工芸の道にも似ていて

言葉が世界に響きを与えるその微細な動きを

傍らからそっと手入れする感性の熟練を要求している

SNSが普及する仮想現実の時代

親指で画面スクロールを繰り返すたびに、目に飛び込むのは

「いいね!」を期待する言葉の群れ

かつて世界の散文だった言葉は、今ではネット社会の中の記号

近さも遠さも不確かな他者の前で、消費されていく

自分をポジショニングしていくために

文脈を失ったツイートが、根無し草のスピードで

取り戻したいこと、それは

言葉が呼吸をすること 生き生きと再び

その息遣いを聴くこと

そのリズムと共に思考を表に現すこと

言の葉が宙を舞い

水溜りに落ちたその瞬間に生まれる

微かな波紋が

振動となって世界を動かす

その世界の揺らぎを持続させること

言葉に生きる時間を与えること

物を書くということ、それは

この世界が生きていることを

言の葉が世界に舞い落ちるその響きとして表現すること

中野佳裕

2021. 03. 21