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研究者。PhD。専門は社会哲学、開発学、平和研究。社会発展パラダイムを問いなおし、持続可能な未来社会を構想するコミュニティ・デザイン理論の研究を行っている。脱成長、脱開発、トランジション・デザインがキーワード。 Researcher: Areas of specialization are social philosophy and critical development and peace studies. Working on community designing in line with the ideas of degrowth, postdevelopment and transitions design.

2025年 新年のご挨拶

新しい年が明けました。今年も宜しくお願いいたします。

正月の日課は、日本の古典文学を読んで過ごすこと。今年も昨年同様、大好きな古今和歌集と平家物語を手に取りました。仕事の事情で正月を東京で過ごすことが増えましたが、これらの作品を読むと、故郷のある周防灘の風景や歴史、子供の頃に母方の祖母と和歌を詠んで遊んだ頃の記憶が蘇ります。

近年では古典の現代語訳が多く出版されていますが、私はやはり古文のリズムが好きです。

翻訳にも携わっているので、日本の古典がフランス語や英語にどのように翻訳されているのかも興味があります。

今年も複数の言語の間を往来しながら、言葉による表現を磨いていきたいです。

中野佳裕

2025. 1. 1.

ポスト成長イノヴェーションを学ぶ

2024年11月29日(金)と12月4日(水)、立教大学の客員研究員として来日されたマリオ・パンセラ教授(ビーゴ大学、スペイン)による大学院生向け研究会を開催しました。

https://postgrowth-lab.uvigo.es/news/2024-12-09-mario-pansera-visits-rikkyo-university

マリオ・パンセラ教授は、科学技術イノヴェーションを専門家です。2020年より欧州研究会議(ERC)から助成を受けた研究プロジェクト「経済成長なき繁栄(PROSPERA without Growth)」の研究代表者を務めておられます。研究拠点のスペインのビーゴ大学には、「ポスト成長イノヴェーション・ラボ(Post-growth Innovation Lab」が設置され、同「ラボ」が中心となって第10回国際脱成長会議(10th International Degrowth Conference)が開催されました1

「ラボ」の目的は、脱成長/ポスト成長志向の科学技術イノヴェーションの在り方を構想することにあります。中堅~若手研究者を集めた学際的な研究環境の下、次のような研究課題に取り組んでいます。

  • イノヴェーションの政治(Politics of Innovation)・・・何のためのイノヴェーションか、規範と目的を問い直す。
  • 責任あるイノヴェーション(Responsible Innovation)・・・専門家による科学技術イノヴェーションの支配の構造を崩し、イノヴェーションの民主化を促進するガイドラインを構想する。
  • 協同組合運動と社会的経済(Cooperativism and Social Economy)・・・社会的公正を実現する協同組合型経済の可能性の探求
  • 草の根のイノヴェーション運動(Grassroots Innovation)・・・民衆をエンパワメントするボトムアップ型イノヴェーションの研究
  • ポスト成長&脱成長(Post-growth and Degrowth)・・・経済成長パラダイムにはまり込んだ既存の社会組織&制度の在り方を問い直し、ポスト成長&脱成長志向のイノヴェーションの道筋を構想する

11月29日(金)の研究会では、「ラボ」の基本的アイデアや取り組みが紹介されました。12月4日(水)の研究会では、草の根のイノヴェーション運動の事例として、欧州の「修理する権利を求める運動(The Right 2 Repair Movement)」の事例が紹介されました。

「ラボ」の取り組みは、脱成長のアイデアを科学・技術・社会(STS)やソーシャル・イノヴェーションの分野で具現化していく良い事例だと考えられます。欧州におけるポスト成長/脱成長研究の裾野の拡大を確認できた貴重な研究会でした。

2回にわたる研究会でパンセラ教授は、イノヴェーションの民主化のためには強力な社会運動が欠かせないことを強調されていました。社会運動と連携した研究を進めるPROSPERAは、まさに脱成長の本道を行く研究プロジェクトだと言えるでしょう。

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中野佳裕

2024. 12. 24.

  1. 第15回欧州エコロジー経済学会(15th Conference of the European Society for Ecological Economics)との共同開催。参加者は1000名を超え、900本を超える論文発表が行われた。 ↩︎