この度、総合人間学会編『人新世とAIの時代における人間と社会を問う』が本の泉社より刊行されました。
小生は「人新世とAIの時代における脱成長」という論文を寄稿しています。
人新世の科学的言説、トランスヒューマニズム、持続可能な開発が絡みあいながら「緑の経済成長」パラダイムを形成するプロセスを、欧州の事例を中心に考察。その対案としての脱成長のシナリオを検討しています。
人新世研究、グローバル政治経済学、社会思想史、科学思想史、技術哲学などの複数の文脈を横断しながら、多面的な問題に一本の糸を通して整理するにはどうすればよいか、大変苦労しました。「開発新世(the Developmentocene)」という新しい概念を導入しています。
納得のいく論文に仕上がりました。是非、多くの方に読んで頂きたいです。
追記)本論文の参考文献リスト(70頁目)に、下記引用論文の記載が漏れておりました。この場を借りて、書誌情報を追加させて頂きます。
Yusoff, K. (2016) ‘Anthropogenesis: Origins and Endings in the Anthropocene’ Theory, Culture & Society, Vol. 33 (2): 3-28.
詳細は、出版社ウェブサイトまで。
6月18日(土)、日本平和学会(PSAJ)で「食と脱成長:〈緑の経済成長〉パラダイムをいかにして克服するか」という報告を行いました。要旨を Researchmapポータルにアップしています。
気候変動の複雑な現実を前に、食の問題は一筋縄ではいかない問題に直面しています。今回は、食の政治経済学と食の哲学の最新の研究を交差させるかたちで、脱成長と食の関係を考察してみました。
とはいえ、それほど構築された議論を提供できたわけではありません。報告のために数カ月前から準備を進めていましたが、解けない問題があまりに多すぎて、研究は迷宮入り。最終的に行き詰まってしまいました。
今回の報告の最大の収穫は、研究中に行き詰まった難問を「行き詰まった、解決できない、困っている」と率直に報告し、抱えている問題をオーディエンスと共有できた点。主義主張を述べたり、安易な対案を提案するよりも、躓き石となった点と素直に向き合い、わからないことをわからないと言う。学問における誠実さってそういうところにあると思います。良心にしたがって報告できて良かったと思います。
他の登壇者、討論者、オーディエンスとのディスカッションも、考察を整理するための手助けとなりました。この場を借りて感謝申し上げます。
それにしても、この分野は本当に興味が尽きない。これからも視野を広げて研究していきます。
中野佳裕の研究室 Yoshihiro Nakano's Web Office