Photos & Topos 2020

December 2020

©Yoshihiro Nakano

ジャック・デリダ『グラマトロジーについて』。写真はガヤトリ・スピヴァクによる英訳で、1974年に刊行された(原書は1967年刊)。英国サセックス大学博士課程に在籍中は、欧州各地の反戦運動/反グローバリズム運動に参加する傍ら、デリダの著作から多くを学んでいた。このコーナーでは私の思索の源泉となる場所を紹介しているが、振り返ると、「思想、翻訳、読解というPraxisが生産されるトポス」を意識するようになったのは、デリダの様々な著作を通じてだったと思う。『グラマトロジー・・・』は彼の初期の代表作の一つ。久しぶりに読み始めると、やっぱり超絶面白い。『Ecriture et différence』『Marges de la philosophie』『La dissémination』『De l’ésprit』『Spectres de Marx』『Politiques de l’amitié』『Résistance de la psychanalyse』『Donner la mort』など・・・繰り返し読んだ著作は多い。一番好きなデリダの著作は、1987年刊の『Psyché: Invention de l’autre 』。また読みたくなってきた。


November 2020

©Yoshihiro Nakano

今月初旬に白水社から刊行されるS・ラトゥーシュの新しい訳書。原書はPUF Que sais-je?から2019年春に刊行されました。21世紀に入りフランスから世界へ普及した脱成長運動の歴史的背景、理論的射程、実践例、課題を、最新の議論を踏まえて整理しています。一文一文に、著者の長年の思索活動の軌跡が凝縮されており、本としてはコンパクトなのに、内容は壮大。世界各地の脱成長の思想文化の地下水脈を横断する旅。納得の仕上がりになりました。多くの方に読んでもらいたい一冊。


October 2020

©Yoshihiro Nakano

2020年10月。東京都国立市のギャラリービブリオで開催された、「Resta a Casa」展。今年3月初旬に美術展参加のためにイタリア・トリノに訪れた画家の鈴蘭さんが、現地で経験した都市封鎖(ロックダウン)の様子を2カ月にわたってスケッチしたもの。自前の画用紙と鉛筆だけで描いた日常生活の風景画には、ロックダウン生活の特異な時間の流れが刻まれています。


September 2020

©Yoshihiro Nakano

2020年1月。故郷の室積の牛島にて。地元の企業の事業の一つとして始まった、海底湧水を使った塩造り。写真は製塩を行う塩小屋。この地域の民俗史料を参考にして、建材には江戸時代と同じように竹を使っています。


July-August, 2020

©Yoshihiro Nakano

2020年1月。故郷の室積の牛島にて。在野の海藻研究者・新井章吾さんの試みで、海藻肥料や炭を使った無農薬野菜作りが数年前より行われています。写真は畑の一つで、水はけを良くするために、畑の周りに不要となった瓦を積み上げて囲っています。


June, 2020

©Yoshihiro Nakano

故郷の室積半島の南端にある鼓ヶ浦は、実家で作っていた和菓子「鼓乃海」の名前の由来となった場所である。そこから周防灘を眺めると、真南に15キロ離れたところに祝島が見える。我が家の歴史を六~七世代遡ると、私のルーツはこの島にたどり着く。島と半島のネットワークが描く「海の地域主義」という着想は、私の文化的遺伝子に刻まれているのかもしれない。


May, 2020

©Yoshihiro Nakano

山口県室積半島にある臨済宗・普賢寺の境内の天井には、かつて船乗りが使っていた羅針盤が取り付けられている。普賢寺が建立されたのは平安時代末期。地元の漁師が漁を行っている最中、半島の東側の御手洗湾から普賢菩薩を引き上げたことがきっかけとされる。以来、半島は漁師と寺社の町として発展し、江戸時代には廻船問屋を中心とする港町として繁栄した。武家社会の影響を受けていないのが特徴的だ。集落の起源には漁と宗教の結びつきがあり、それが神話的起源となって年一回の普賢祭りという行事によって今でも再現されている。


April, 2020

©Yoshihiro Nakano

山口県室積半島の共同井戸。漁業と商業で栄えた室積浦では、享保年間に大火事があり集落の大部分が焼失された。その教訓から、地元の何件かの商家は、室積浦の要所要所に共同利用の井戸を設置し、火災時に備える仕組みを作った。江戸時代の室積では、〈私〉の領域である経済活動が〈共=コモンズ〉づくりに寄与していたが、このようなコミュニティ経済の在り方は、当時の日本の様々な集落で実践されていたに違いない。


March, 2020

©Yoshihiro Nakano

故郷の室積半島から南に8・5キロにある小さな島、牛島(うしま)には、天保~明治期に建設された共同波止が十数個ある。当時の藩・県の財政事情で公共事業の手が回らなかったため、地元の網元や漁師が頼母子講を組織し、共同出資して作ったもの。各波止の呼称は、中心となった出資者の名前にちなんでおり、個人で所有・管理し、共同利用されている。このように、故郷の伝統的なインフラは、共有化の実践によって整備されてきた。


February, 2020

©Yoshihiro Nakano

2020年1月25日、山口県光市室積で開催されたイベント「未来のまちづくり──人とつながる、自然とつながる、豊かさが変わる」。ステファノ・バルトリーニとのトーク・セッションに加えて、「海から地域をデザインしてみよう」というテーマのエキシビションも行いました。室積と周辺の島々の風景写真、南瀬戸内海をテーマにしたオリジナル詩、環境音を使って作った音楽作品The CommunitySoundscape Murozumiなど、五感を使って地域の未来を考える空間を演出。


January, 2020

©Yoshihiro Nakano

ここ数年継続的に読んでいるのが、山口県周防大島町出身の民俗学者・宮本常一の本。地域主義の提唱者・玉野井芳郎と同様、私の故郷と同じ地域圏に生まれ育った宮本にとって、瀬戸内海は終生の研究テーマでした。玉野井と宮本の研究を土台に「海から捉える地域主義」というものを、今年は考えていきたいと思っています。


Photos & Topos: 2019 / 2018 / 2016-17

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